【がきお物語 第8話】我が子に売られるがきお
これは、仕事人間だった男が、心機一転イクメンを目指すノンフィクション物語である。
がきおはただいまワンオペ育児体験キャンペーンに参加中である。
このキャンペーンは半年に及ぶプロジェクト。
がきおの妻あおむしは毎週土曜日必ず家を空け、おひとりさまタイムを楽しむ。
その間がきおは子ども達と過ごすというものだ。
そんな生活もかれこれ5ヶ月を迎える。
残りあと1ヶ月。
ここまでくると、がきおも子ども達も土曜日がくるのを楽しみにしている。
「明日は何したい?」と問えば
「公園に行きたい!」
「ラピートβに乗りたい!」
「終点関西空港に行きたい!」
※息子は南海電車マニアで、車内アナウンスをそのまま覚えている。
平日にはできないことや、ママには「また今度ね」とかわされてしまうことでも、パパなら叶えてくれるとだんだん分かってきたのだ。
パパと出かけたときには、ソフトクリームやドーナツなんかをねだれば買ってもらえることも分かってきた。
ママには「虫歯ができるからダメ」と一蹴されるから、ねだってさえこないのに。
子ども達は日曜日の朝、昨日パパとどんなことをしたのかママに報告する。
その中で決まって最後にこう言う。
「ママ、パパがカルピス買ってくるねん。あかんねー」
わざとらしいしかめっ面をして見せる。
カルピスの部分はソフトクリームやドーナツ、クレープなどその日によって違う。
まるで「僕は虫歯になったらあかんから断ったのに無理矢理飲まされた」的な言い方だ。
がきおに言わせれば、カルピスを飲みたいと騒いだのも、ドーナツをつかんで離さなかったのも、すべて子ども達なのだそうだが。
ワンオペ育児期間中に「チクる」ことを覚えた4歳児。
そして、あっさり売られる父親。
そんなパワーバランスを見ていると妻としては結構おもしろい。
毎週土曜日がきおが子ども達と濃密な時間を過ごしだして、変わったことがある。
それは、子どもがパパと寝るようになったことだ。
2歳の娘はママとじゃないと寝なかったのだが、ママがいないのならしようがない。
4歳の息子に至っては、普段でもパパと寝たがるようになった。
平日の夜はパパに会わずに寝るので、朝目覚めて寝ているパパを見つけると、その布団に潜り込む。
がきおも最初の頃こそ疲れていたが、最近では子どものリクエストにこたえてやるのを喜んでいる。
わざわざ特急料金を払ってラピートに乗せてやるのも、おやつを買ってあげるのも、父親の特権として置いておこう、と妻は思った。
そして、こうやって子ども達は学んでいくのだ。
父親は財布のヒモが緩い、と―――。
つづく