【がきお物語 第1話】仕事人間がきお
がきおはごく普通のサラリーマンである。
これまでに2回転職をした。
そのいずれの職場も残業天国だった。
深夜残業など慣れたもの。
本日中に帰るかどうかわからない。
22時に帰宅しようものなら「早っ。どうしたん」と、妻。
昼ごはん、晩ごはんを家に食べに帰り、食べたらまた職場に戻ることも多々あった。
結婚してからもそうだった。
子どもが産まれてもそうだった。
一方の妻は、結婚式の翌日からかなり暇だった。
岡山県で新婚生活を始めたため、妻は結婚を機に大阪での仕事を辞めていた。
知り合いもいない。
夫も帰って来ない。
今日喋ったのは、夫とスーパーの店員さんだけ。
暇死しかけた妻は、結婚式一週間後ハローワークのお世話になっていた。
子どもがいない間は、バイトをニつ掛け持ちした。
午前中は寿司屋で接客。
昼過ぎに帰宅して夕飯の準備。
そして夕方から夜まで病院の受付。
21時に帰宅しても、夫は家に居なかった。
妻の妊娠、そして出産
暇を畏れて、臨月まで働いた。
子どもは岡山県で産んだので、がきおは立ち会うことができた。
夜中から陣痛が始まり、昼過ぎに産まれた。
この赤ん坊が、後の南海男である。
陣痛から付き合ったせいでほとんど寝ていないのに、がきおは夕方から職場に戻った。
あまりの残業の多さに、岡山時代のがきおは病みかかっていた。
そして、再転職
残業時間が長いだけでなく、いろいろな面で岡山時代の職場はブラックであった。
死ぬ夢を見ると縁起が良いと言われるが、あぁも毎日死ぬ夢を見られると、そんなはずはないと反論したくもなる。
悲壮感漂う顔で朝を迎え、無言で朝ごはんを済ませ、肩を落として出勤する毎日。
がきおという男、元来にこやかな男なのだが、この頃は違った。
まるで見ていられなかった。
それで、再び転職を決意した。
南海男が生後半年のときであった。
引越作業も、全部妻
クリスマスイブの夜、妻は荷物の運搬作業に立ち会った後、赤ん坊を連れて夜の新幹線に飛び乗った。
実家に着いたのは深夜だった。
この日もがきおは仕事をしていた。
翌日は、妻の実家近くのマンションに荷物が運び込まれた。
がきおがすべての仕事を終え、岡山の家を明け渡し帰阪したのは年末だった。
年が明けると、がきおは新しい職場で働きだす。
ちなみに、今現在もここで働いている。
ここでもやはり、めくるめく残業生活ががきおを待ち受けていた。
今度は子どもがいてスーパーアルバイターにもなれない妻は、実家に入り浸ることで暇死を免れた。
実家の母が専業主婦でよかったと感じた瞬間である。
マイホーム購入も、全部妻
ほどなくして、がきお一家はマイホームを購入することになる。
家の打ち合わせというのは毎週末のようにある。
これがわりと疲れる。
行き帰りの時間を入れると半日以上つぶれるのだ。
残業続きの夫を週末くらいは休ませてやりたい。
妻は平日の昼間に打ち合わせを入れ、子どもを連れて一人で対応した。
まぁ実際は、家のデザインに全くこだわりがない夫を連れていったところで、なんの役にもたたないという理由もあったのだが。
そうして、次のクリスマスには、妻が作り上げた夢のマイホームに引越しをする(もちろん、ローンはがきお名義である)。
案の定、この日もがきおは仕事をしていた。
肝心なときは、全部妻
このように、主要なイベントのときは、基本がきおは仕事をしてきた。
なんなら、結婚式前日も残業をし、深夜に岡山から車をとばして大阪の実家に帰り、昼間に新郎をこなしていた男である。
この男、兎にも角にも仕事人間なのである。
その仕事人間ぷりたるや、もはやアッパレである。
ちょっとやそっとの残業ではビクともしない。
見た目はナヨいが、意外とタフガイ。
よくぞ今日まで生き延びたものである。
つづく